既にブロック取引はパズルだと書いたがパズルのピースの数を決めるのが買い手の数、パズルのピースが多ければそのパズルを完成させるのは難しいし、少なければ簡単。つまりB群の読めない買い需要を営業力で積み上げるよりA群でできる限り買い需要を集めることでパズルのピースを減らしたい。そのために証券会社は通常ブロック取引のファイヤーウォール内にA群の大手ヘッジファンドや機関投資家数社(多くない)を入れるものだ。こうすることで証券会社は“パズル”を大きなピースで容易に完成させるストーリーを描くのだ。
多くの報道でこの部分が抜けている。
A群の機関投資家は完全に彼らの投資判断に委ねられ、タイミングが合えば通常買い需要が大きい。かつ長期保有が前提なので証券会社からすると一番ありがたい買い手である。
しかしながらヘッジファンドはそうではない。何故ならヘッジファンドはパフォーマンスに対するコミットメントが非常に高く、収益機会に対する臭覚がとても優れている。その結果、彼らは当該株式を他社経由でショートする可能性がある。仮に当該株式をショートすれば株式需給が悪くなり株価は想定以上に下落する可能性が高い。またショートしなくても長期で保有することは保証されない。正直なところ証券会社はある程度この行動を容認している。何故ならヘッジファンドは、証券会社にとってピースを減らす重要な役割を担っているからだ。
ヘッジファンドからすればショートできれば株価が下がることで安く買い戻せるのでありがたい。一方、証券会社は株価が下げすぎると売り手がブロック取引を止めるという可能性があり大幅に下落することは避けたい。この相反する目的は最終的に証券会社とヘッジファンドの間のパートナーシップつまり阿吽の呼吸に委ねられる。
阿吽の呼吸、つまり証券会社はある程度パートナーであるヘッジファンドの行動は黙認するので株価をあまり下げすぎないでね、という暗黙の了解だ。ヘッジファンドにしてもショートする参加者(パートナーではない通常顧客としてのヘッジファンド)が多すぎて株価の下落が行き過ぎてしまうとブロック取引がキャンセルされ買い戻しで大きなリスクを生じる可能性がある。
要するに極力参加者を減らしてブロック取引をしたいとパートナーであるヘッジファンドは考えている。参加者が多すぎると株価が下落し過ぎてブロック取引がなくなる可能性があり、三位一体の不文律が崩壊してしまうのだ。その場合一番の被害者は間を取り持つ証券会社になる可能性が高い。それを避けるためにも今回の行動を取ったと考えるのが妥当だと考える。
SMBC日興の問題はこれらの“調整”が何らかの理由で上手くいかなかったのではないだろうか。
実際SMBC日興のケースでどの程度のヘッジファンドが参加していたかわからない。しかし以下の2点でそれはほぼ間違いない。
① 債券部出身某欧州系証券会社日本法人社長から連絡がありSMBC日興の問題で話題になっている株式をその時期に貸株してしまったと直接相談有
② ブロック取引前日にSMBC日興社内でブロック取引の内容が公にシェアしていたという報道
この②で明らかなようにこのような情報管理ではショートするヘッジファンドを限定的にするのは非常に難しく株価下落の要因になってしまったかもしれない。
今回SMBC日興は報道されているように株価が下落してブロック取引がなくなることで当初見込んでいた収益が得られなくなることよりも、売り手及び買い手との関係性が悪くなり将来のビジネスが落ち込む可能性があることを恐れた結果、終値関与という行動に出た、というのが私の考えである。
それにしても何故取引前日に社員に取引内容がシェアされたのか?なぜ自己買い注文が禁止されていないのか?システム的にブロックされていなかったのか…
これは間違いなく内部管理の問題であり、はたして5人が逮捕されてしまう必要があったのか?
私の知らない闇がまだ深そうである。
今回問題となったブロック取引がSMBC経由でやってきた案件だったとすれば売り手(
SMBC顧客)との関係をより重要に考えなくてはならず、親会社とのパワーバランスが変化することは言うまでもない。また今後金融庁からの業務改善命令など罰則が出されることは必至で、親会社主導の再建計画や再発防止策を打ち出していかざるを得ないだろう。通常業務に戻るまでかなり長い道のりである。
実は私は元々日興證券出身だ。今も知っている先輩後輩や同期が何人も働いている。そんな彼らが証券マンの気概を持って働いていける方向で生まれ変わってくれることを切に願う。
xoxoかえるさん
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