機関投資家のアルゴ取引は個人投資家が考えているよりもはるかに先進的だ。
5月15日の週刊xoxoでそのような記事を書いたが、確かに先進的であることは僕の経験上間違いはない。ただ経験という『何となく』の印象で記事にした手前、一応確認作業をしようと文献を探ってみたところ最近の状況を表す面白い金融庁のレポートに出会った。
そもそも米国市場構造の複雑さに比べると日本市場の構造はシンプルなのでアルゴ全盛のこの時代でも個人投資家が最先端トレーディングテクノロジーを武器とした機関投資家とやりあうことは可能だろうという前提だった。この場合の機関投資家はマーケットシェア70%を有する海外投資家を意味する。
別に株取引に限った話ではないが、例えばライバルと何らかの競争をする場合、相手の強みや弱みを分析してそこを突破口にするのは普通の戦略だ。そうであるならば海外投資家の強みや弱みを分析することで同じようにできるのではないか?そう考えたのだが、そのレポートを読むとどうやらそこまで単純ではないらしい。
上記はその金融庁のレポートからの抜粋だ。
これによると登録HFT(超高速取引業者)の売買代金シェアは40-45%であることがわかる。海外投資家のシェアが70%でHFT(ほぼ全て海外籍)が仮に45%であるならば30%は非HFT海外投資家である。これは個人投資家比率約20%と大きく差はない。つまりマーケットの戦力図は超ハイテク投資集団45%、まあまあハイテク投資集団30%、個人投資家20%とその他10%という図式であり実は個人vs.機関投資家という単純なものではないことがわかる。
さらにHFTは上記のような戦略が主流であるとレポートに記述がある。
因みにMM(マーケットメイク)戦略は同一銘柄の売りと買いを超高速で行い、ポジションはほぼ必ずその日のうちにクローズするので極端な株価の動きをしなければ基本的にマーケットに対してニュートラルな戦略だ。しかし極端な株価の動きというのが問題で、株価が大きく動くとMM戦略は急に注文、変更、取り消しを激しく行い株価の動きが加速することがある。ミリセカンドレベルの発注が数千、数万という件数でなされるので投資家から見るとなんとなく取引が多く株価が動きそうな幻影が見えてしまうかもしれない。それ故株価が上がってしまう?下がってしまう?という瞬間的な人間の判断を混乱させてしまう。とても厄介である。
またAR(アービトラージ)戦略はマーケットの中でミスプライスを見つけ、それを高速売買で鞘を抜く戦略でミスプライスが解消されれば終了。今では東証の呼び値刻みとPTS呼び値刻みが統一されていないので市場間アーブ、また市場に受け付けられるタイミングの違いで生まれるミスプライスを狙うレイテンシーアーブ等昔ながらの同セクター内での割高銘柄売り、割安銘柄買いというシンプルな裁定機会を狙っているわけではない。とにかくスピードにセンシティブだ。
ただ5月15日の記事で書いた通り、株価を意図的に動かすDR(ディレクショナル)戦略こそが真のライバル、個人投資家が日々一番警戒しないといけない投資主体だと言える。上記のチャートではこの時期DR戦略が大きく売買金額を伸ばしている。簡単に言えば一番儲かる戦略だったのだろう。
MMやAR戦略が活発化するのはDR戦略が初動で動いた後発動することが多い。何故ならDR戦略がやってくることでボラティリティが上昇しスプレッドが拡大、さらにミスプライスの可能性が増えるからだ。
そうでなければ比較的マーケットへの影響は軽微、むしろ流動性を供給しているという点では好意的に迎えられてもよい。DR戦略はマクロ情報であろうとミクロ情報であろう、芸能ニュースだろうとゴシップネタだろうとテキストデータ含めて定量判断可能なデータさえ入手可能であれば彼らは動く。それは時に一方方向に動き、時として間違ったヘッドラインに反応したとしても動く。それら全てのデータがアルゴリズム分析され、超高速で市場に発注という形で送られる。
個人投資家が一番警戒しないといけないのはDR戦略、さらにこれらが組み合わせられた時のHFTと考えるのが妥当である。
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