注目の 米5月CPIが市場コンセンサスを上回り、インフレが景気後退を招くとの懸念が強まった。前月を上回る40年ぶりの高水準に金融市場はリスクオフに大きく動いた 。米国株は急落。NYダウは880ドル安、前日もCPI懸念から638ドル安だったので、2日で1,500ドルを超える下げを演じた。債券は急落。米2年債利回りは発表直前の2.84%から3.06%まで急騰、イールドスプレッドが大きく縮小した。ドル円は直前の133.81から134.48までの円安が進行した。市場の動きの意味すること、今年後半の相場の考え方について整理しておきたい。
■5月CPIはネガティブサプライズ、インフレ警戒続く
今年後半の金融市場動向を左右するイベントとして重要視されていた米5月CPI。6月10日の米国朝8時半(日本時間21時半)に発表された。
総合指数は前年比8.6%増(コンセンサス8.3%増)、前月比1.0%増(同0.7%増)。ともにコンセンサスを上回るネガティブサプライズだった。4月の8.3%から拡大し、40年ぶりの大きさとなった。
また、市場がより重視するコア指数(エネルギーと食品を除く)は前年比6.0%増(同5.9%)、前月比0.6%増(同0.5%)とこれも予想を上回った。
今回のCPIの注目度が特に高かったのは、「インフレにピーク感」という見方と「インフレは続く」と市場の見方が別れており、今回のCPIでその方向性が見定められる可能性が高かったからだ。
ちなみに、5月11日に発表した4月のCPI後の市場を振り返えっておこう。4月のCPIは前年同月比8.3%増。市場予想の8.1%を上回った。CPIの結果を受けて米主要株価指数は下落。NYダウは326ドル(1.0%)安で年初来安値を更新。5月20日の年初来安値まで調整モードは続いた。ただ、1981年12月以来約40年ぶりの高水準となった3月の8.5%から低下しており、前月比が8ヶ月ぶりに縮小していた。このため、インフレピークアウトとの見方も市場には拡がりはじめた。景気動向に敏感な債券市場では、10年債利回りは5月9日につけた3.18%の高値を直近のピークに、ピークアウト期待からCPI後の5月26日には2.71%まで下げた。
今の金融市場の焦点はインフレ動向と景気動向である。5月のCPIの注目度は、6月3日に発表した米5月雇用統計よりも、50bpsの利上げが完全に織り込まれている来週14〜15日のFOMCよりも高かったとも言える。
もし、ピークアウト感がでれば、FRBは利上げのスタンスを緩和する可能性があり、株式市場など金融市場にはポジティブ。ピークアウト感がでなければ、FRBの利上げに対するタカ派スタンスが続き市場にはネガティブ。市中金利が上昇し、金利上昇で株価評価が下がるハイテクやグロース株を中心にナスダックなど株価の下値模索が続く可能性があるという見方が発表前のコンセンサスだった。
■市場の反応 リスクオフの流れ強まる
市場の反応は、株安、債券安(金利は上昇)、ドル高のリスクオフに完全に傾いた。
NYダウは、前日9日にも638ドル(1.9%)安と下げていた。CPIを控え警戒感が広まり、引け前約1時間で400ドルほど急落しほぼ安値引けだった。10日は寄り前にCPIがネガティブサプライズだったため、ギャップダウンの219ドル安の32,053ドルで寄り付いた後、ほぼ終日安値圏で推移し、880ドル(2.7%)安で引けた。寄り付き高値でほぼ安値引け。週末でもあり、来週末17日にクアドラプル・ウィッチング(日本のメジャーSQに相当)を控えていることもあり、押し目買いも入りにくい状態だった。
★NYダウの反応(5分足、9日〜10日の2日間)
債券市場もリスクオフで金利の上昇が顕著だった。債券利回りを見るときに重要視するのが、短期の2年債利回りと長期の10年債利回りだ。2年債は短期なためFRBの金融政策、10年債は長期なため米国の景気動向が値動きに反映されやすい。
NY時間16:46時点で、2年債利回りは3.065(前日比+0.254)%、10年債利回りは3.157(同+0.116)%と上昇した。
2年債利回りは08年6月以来の水準。2年債が一日で25bpsも急騰することは珍しい。10年債利回りは1ヶ月ぶりの高値水準。5月9日につけた3.18%の直近高値を接近している。
2年債の急騰で、2年債と10年債のイールドスプレッドは0.09%と4月6日以来の低水準を付けた。3月29日に2年債ー10年債のイールドスプレッドは19年夏以降2年半ぶりの逆イールドを付けた。逆イールドは市場では景気後退のシグナルとされ、景気後退の1~2年前に発生しており、市場参加者の関心が高い指標の一つにである。
’★米2年債利回りの反応(5分足、9日〜10日の2日間)
★2年債ー10年債のイールドスプレッド(日足)
ドル円は、ドル円は133.81から134.48までの円安が進行した。6月9日につけた2002年2月以来20年4ヶ月ぶり134.55こそ抜けなかったが高値圏で推移している。
実は、 急激な円安を懸念して10日の夕方に、日銀、金融庁、財務省の幹部による臨時会合が開かれた。急速な円安への憂慮が表明され、あらゆるオプションを含めた対応を行うとの発言で市場には介入警戒が働き、海外市場でドル円は133.36まで下落していた。 その中での円安の進行だ。
★ドル円(5分足、9日〜10日の2日間)
■市場の見方と長期投資へのインプリケーション
金融市場はCPIを受けリスクオフの流れで、株安、債券安(金利上昇)、ドル高・円安に動いた。
特に2年債の利回りが急騰した意味は、インフレが継続しFRBが利上げのタカ派スタンスを続けるという見方が広まったためだ。市場ではFRBの利上げスタンスについて、6月、7月のFOMCで50bps利上げはほぼ間違いないが、インフレが落ち着き9月には25bpsに利上げペースが緩むという見方がコンセンサスだったが、 9月も50bpsになるとの見方や、7月のFOMCで利上げが75bpsになるかもしれないという見方 が出始めた。
そして、 2年債ー10年債のイールドスプレッドが縮小し逆イールドが近づいてきた。これは、景気はソフトランディングし後退しないという見方が崩れてきた ことを示している。逆イールドは景気後退が1〜2年で始めることを示唆するとの見方が一般的だからだ。
総括すると、 金融市場はしばらくインフレに関し神経質な動きが続く可能性が高い。ソフトランディングに失敗し、景気後退に至る可能性も高いという見方にシフトし始めていることになる。
そうなると、NYダウは5月20日に長い下ヒゲを出して反発、日本株も28,000円台まで戻して株式相場は底打ちしたとの見方が、まだベアマーケットラリーでありまた下値をうかがう可能性もあるという見方も増えてきたことを意味する。
この状況では機関投資家などロングオンリーの投資家の買いは見込みにくい。買いは買い戻しなど短期投資家の動向が中心になる。長期の積み立て投資以外の株式ポジションは控えめを続けるべきだ。
株式投資なら、バリュー系、利回り系などディフェンシブなポートフォリオ、最小分散投資などを中心にしておくべき局面 が続くことを意味する。
★NYダウ(日足、21年以降)
■Don't fight the Fed. (FEDと闘うな!)
金融市場では、米国の中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策が一番の重要イベントだ。これは、米国株、米国投信、債券、為替などだけでなく、日本株や新興国の株価や債券動向にも大きな影響を与えるため、世界中の投資家から注目されている。
「Don't fight the Fed.(FEDと闘うな)」 という市場の格言がある。金融市場では、Fed(FRB)が打ち出す方針に逆らわずに素直に従って投資するべきだという意味だ。
FOMC (連邦公開市場委員会)はFRBの金融政策決定会合で、基本的には約6週間毎で年8回開催される。FRBなど世界の中央銀行の一番大切な役割は、インフレを防ぐことである。 FRBは株価よりもインフレ沈静化を優先し、インフレ傾向が収まらない限りは利上げのタカ派スタンスを採る だろう。FRBは金融政策の指針であるFF金利を通常時の中立金利と考えられる2.25%~2.5%までは利上げを急いでいる。現在は0.75~1.00%。少なくとも年内に1.5%は利上げするというのがコンセンサスだったが、ターゲットとする金利は3%程度までに上げられる懸念もでてきている。
xoxo ロン
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